UI/UXデザイナーのための勝てる提案書作成方法

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UI/UXデザイナーのための勝てる提案書作成方法

投稿日:

2024.01.01

勝てる提案書とは、単なる情報の寄せ集めではなく、相手の意思決定を前へ進めるための「設計図」です。この設計図があるからこそ、案件獲得やキャリア発展のチャンスが広がります。この記事では、UI/UXの実務に基づいた提案書の作り方を、ワークショップ設計やROI(投資対効果)の説明方法まで具体的に解説します。読み終える頃には、次の提案を自信を持って組み立てられる状態になっているはずです。

提案書が果たす重要な機能

提案書は、クライアントが発注するかどうかを判断するための「意思決定支援ドキュメント」です。課題解決の筋道を示し、信頼関係を築き、プロジェクトの範囲を明確にすることで、相手が抱える不安や不確実性を取り除きます。単なる依頼ではなく、経営資源を正しく配分するための根拠資料として機能することが重要です。

課題解決の提示

提案書では「何を・なぜ・どのように変えるのか」を、ユーザー体験と事業成果の両面から描く必要があります。UXデザインの役割は、問題と解決を結び直し、論理的に伝えることにあります。

信頼関係の構築

いきなり資料を作り込むのではなく、口頭でのプロトタイプ的なプレゼン→原稿化→スライド化と段階を踏むことで、言葉の精度が高まり、相手に伝わる提案になります。

プロジェクト範囲の明確化

UX提案書はステークホルダー全員に意図と範囲を理解してもらうための媒体でもあります。支払い条件や期限といった“後で揉めやすいポイント”も、最初から盛り込んでおくことで、運営上の摩擦を大幅に減らすことができます。

契約前マネジメントとしての役割

提案書は単なる「受注のための資料」ではありません。契約前の段階から、プロジェクト運営を安定させる“プロジェクトマネジメントの前倒し”としての役割を果たします。実際、契約後に仕様変更や追加費用を巡ってトラブルになるケースの多くは、提案書でリスク範囲や判断基準が明示されていなかったことに起因します。提案段階で「この条件なら追加見積もりが必要」と線引きをしておけば、後々の不必要な衝突を避けられます。

――ここまでで提案書の役割が整理できました。次は「勝てる提案書の型」を具体的に解説していきます。

案件獲得につながる提案書の基本構造

良い提案書は、ただ情報を並べるのではなく「結論→根拠→実行方法→投資回収」の順で、読み手を自然に納得させる流れを持っています。この流れを押さえることで、相手が迷わず意思決定できるようになります。構成の中心となるのは次の4つです。

  1. 課題の深堀りと現状分析

  2. ソリューション提案

  3. 実行計画と成果物の提示

  4. 投資対効果(ROI)の説明

課題の深堀りと現状分析

「アプリをリニューアルしたい」といった要望の背景には、もっと根本的な課題が隠れていることが多いです。

例えばECサイトの場合、セッション数、商品閲覧、カート投入、購入完了という流れを分解して、どの段階でユーザーが離脱しているかを特定します。数値データ(アクセス解析やNPS調査)だけでなく、レビューや問い合わせといった声も組み合わせると、課題の輪郭が鮮明になります。

ここで役立つのが「UI/UXデザイン ワークショップ」です。初回に1.5〜2時間のセッションを設定し、KPI(重要指標)の確認、ペルソナの業務文脈整理、障害要因の洗い出しを行います。成果物は議事録ではなく「次に取るべき3つの行動(Next 3)」にまとめると、そのままスコープ定義や見積もりに繋げられます。

さらに、ワークショップではクライアント自身も気づいていない制約を表に出すことが重要です。たとえば「送料を早めに表示したい」と提案しても、実際には複数の倉庫システムが統合できない、あるいは契約上外部システムに接続できないなどの制約があるかもしれません。こうした前提を早く押さえておくことで、代替案を含めた現実的な提案ができます。

ソリューション提案の具体化と差別化

提案の肝は「デザイン案」ではなく「事業成果に繋がる解決策」を示すことです。

例えば「比較表に固定ヘッダーをつけ、最安値をバッジ表示し、送料を早めに見せる」といった改善は、確かにCVR(購入率)を上げる効果が期待できます。ただし、その裏側では価格データを正しく管理する仕組みやCMS(コンテンツ管理)の改修も必要になります。ここまで具体的に書くと、提案は単なる“絵”ではなく、実現可能な“仕組み”として信頼を得られます。

さらに差別化には、プロセスの設計も有効です。施策を「効果の大きさ×実現性」で評価して優先順位を決め、A/Bテストの設計(指標、サンプル数、検証期間)まで提示すると説得力が増します。また、ワークショップで合意した判断基準(例:主要KPIが±3%動いたらGo/NoGo)を再掲すると、決定が早まります。

プロジェクト実行計画と成果物の明示

実行計画は「誰が・いつ・どこまで担当するか」が一目でわかる形にまとめます。大まかに3フェーズに分けると理解されやすいです。

  • Phase1(週1〜2):ワークショップと調査。データを統合し、仮説を整理。KPIと測定方法を確定。

  • Phase2(週3〜6):デザインスプリントを繰り返し、優先度の高い案をプロトタイプ化。ユーザーテストやA/Bテストを実施。

  • Phase3(週7〜8):最終UIを確定し、アクセシビリティ基準に適合。デザインシステムに反映し、実装をサポート。

成果物としては、ユーザーフロー図、モックアップ、ABテスト設計書、アクセシビリティ監査結果、受け入れ基準などがあります。これらをプロダクト要件(PRD)と結びつけると、開発チームとの橋渡しがスムーズになります。

投資対効果の論理的説明

最後にROI(投資対効果)の説明です。これは「数字で納得させる」部分。

例:

  • 月間セッション数:150,000

  • CVR:2.4% → 改善後2.9%

  • 平均注文額:¥6,200

  • 利益率:35%

この場合、改善によって月750件の注文増加、売上約465万円増、利益約163万円増が見込めます。プロジェクト費用が300万円なら、約2ヶ月で回収可能です。

さらに提案する改善施策の効果を「最悪・標準・最高」の3つのケースに分けて試算し、測定方法と一緒に示せば、経営層は安心して判断できます。

提案書作成における戦略的事前調査と情報収集術

提案書の成否は、準備段階の調査に大きく左右されます。限られた時間であっても「幅広く浅く」ではなく「狭く深く」。本当に意思決定に効く情報を取りにいくことが重要です。

クライアント企業の徹底リサーチ手法

  • 財務と戦略の把握:IR資料やプレスリリースから売上の内訳や重点施策を確認します。

  • 組織課題の推測:求人票から「どのポジションを強化しているか」を読み取り、内部の課題を推定します。

  • ユーザーの声を収集:アプリストアのレビューやSNS上のコメントから、実際の利用体験や不満点を拾います。

  • 技術基盤を確認:採用ページやソースコードのタグを見れば、使っている技術が推測でき、実現可能性を判断できます。

  • 改善余地を特定:CSログやチャット履歴は「困りごと」が凝縮された情報源。ワークショップで議題にすべきポイントを見つけられます。

ステークホルダー分析と意思決定構造の把握

提案が通るかどうかは「誰が決めるか」で変わります。権限と関心をマッピングし、誰の同意が必要かを整理します。また、稟議フロー(誰が起票し、誰が承認するのか)を事前に確認し、提案スケジュールに反映させます。ワークショップで意思決定の基準を合意しておけば、後からの修正や追加調整を減らすことができます。

競合分析とポジショニング戦略

比較は「機能の数」ではなく「体験の質」で行います。

発見しやすさ、操作のしやすさ、信頼性、表示速度、アクセシビリティといった観点で横並びに比較し、自社が優位に立てるポイントを探します。そこで導き出した差別化仮説を1枚にまとめ、最小限のプロトタイプやテスト計画として提示すると、現実味のある提案になります。

説得力を高める文章構成

情報が多くても「読みやすい」と感じさせるのは、文章の美しさではなく構造の工夫です。PREP法を基盤に、ストーリーテリングの温度感や専門用語の翻訳力を加えると、読み手を動かせる提案になります。

PREP法を活用した論理的文章構成

PREP(Point / Reason / Example / Point)は、1つの主張を1スライドで完結させるための型です。

例:

  • Point(結論):「チェックアウト前に送料を表示するとCVRが改善します」

  • Reason(理由):「購入直前のコスト不確実性が障壁になっているためです」

  • Example(例):「3つの送料プランをカード下に固定表示し、合計金額を即時計算します」

  • Point(再結論):「テストで+0.3pt以上改善すれば、全ユーザーに展開します」

各スライドを「1主張1根拠」で構成し、章の冒頭と末尾で結論を重ねると要点が印象に残ります。

ストーリーテリングによる感情的訴求

ストーリーは大げさに語るのではなく「文脈を取り戻す」手段です。状況→葛藤→意思決定→変化という短い流れを描くことで、データだけでは伝わらない価値を補完します。

例:比較検討で迷うユーザー“彩さん”。合計額が最後までわからず不安→送料の先出し表示で安心→「試してみよう」と購入に踏み出す。この短い物語が、KPIの裏にある人間的な動機を想起させます。

専門用語の適切な使い分けと説明

提案の読み手にはリテラシーの差があります。そこで「二層の表現」を意識しましょう。本文は平易な言葉で、専門用語は括弧で定義を添える。さらに数字も「CVR+0.5pt」ではなく「月750件の追加注文」と具体的な単位に翻訳することで、理解のスピードと納得感が増します。

クライアント別の提案書カスタマイズ

提案書は「誰に向けるか」で有効性が大きく変わります。企業の規模、業界の特性、クライアントとの関係性に応じて、論点の強調や証拠の置き方を調整することが大切です。

スタートアップ向けアジャイル提案手法

スタートアップは予算も時間も限られているため、「今すぐ効果が出る最小構成」に絞るのが鉄則です。Dual-Track Agile(探索と実装を同時進行する方法)を前提に、仮説のリストと検証計画をセットで提示します。また、成果物をマイルストーンごとに分割し、段階的に合意を取りながら進めることで、経営層の心理的な安心感を確保できます。

スタートアップにはUXリサーチャーが不在なケースも多いため、提案書に簡易的なユーザー調査やインタビュー計画を含めておくと評価が高まります。

大企業向け詳細提案書の作成要領

大企業では、承認者が多く、稟議(社内決裁)を通すことが一番の壁になります。ここでは「持ち運ばれる資料」を意識し、誰が見ても判断できる内容に仕上げることが重要です。

PoC(試験導入)→限定リリース→全社展開といった段階的な実行計画、監査証跡(承認ログや要件トレーサビリティ)、セキュリティや法務のQ&Aを先に提示することで、承認スピードが上がります。特にセキュリティや個人情報の扱いは承認のボトルネックになりやすいため、コンプライアンス部門に向けた補足資料を添付しておくのが有効です。

業界特化型ソリューションの提案方法

金融や医療、EC、教育といった業界には、固有の規制や制約があります。こうした領域では、UIの見た目を見せる前に「制約下でどう最適化するか」をテキストで筋立てて説明することが求められます。

例えば金融なら「本人確認や同意取得の透明性」、医療なら「誤操作防止や色覚多様性への配慮」、ECなら「在庫・配送・価格といった不確実性の管理」、教育なら「学習履歴の可搬性や倫理配慮」など。それぞれの業界特性に即した解決策を提案書に盛り込むことで、説得力が高まります。

継続案件と新規案件の提案戦略の違い

継続案件と新規案件では、提案の焦点が異なります。

  • 継続案件:既存のクライアントには「改善の積み重ね」が評価されるため、リテンション(継続利用)や業務効率化に焦点を当てます。

  • 新規案件:初めてのクライアントには「短期間で目に見える成果」が信頼構築のカギ。小さなクイックウィンを最初に置き、早い段階で成果を示すことが重要です。

どちらの場合も、意思決定の速さをKPIの一つとして設定すると、クライアントとの関係が長期的に安定しやすくなります。

まとめ

勝てる提案書は、ビジュアルの美しさだけでは足りません。クライアントが「これなら社内で通せる」と感じるような、実務的な安心感を与えることが欠かせません。

そのためには、デザイン案に加えて「リスク管理」「予算の妥当性」「実行体制」を含めた事業推進のためのパッケージとして提案書を作る視点が必要です。提案書を単なる資料ではなく、クライアントの意思決定を動かすツールとして捉えることが、案件獲得と信頼構築の近道になります。

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UI/UXデザイナーのための勝てる提案書作成方法

投稿日:

2024.01.01

勝てる提案書とは、単なる情報の寄せ集めではなく、相手の意思決定を前へ進めるための「設計図」です。この設計図があるからこそ、案件獲得やキャリア発展のチャンスが広がります。この記事では、UI/UXの実務に基づいた提案書の作り方を、ワークショップ設計やROI(投資対効果)の説明方法まで具体的に解説します。読み終える頃には、次の提案を自信を持って組み立てられる状態になっているはずです。

提案書が果たす重要な機能

提案書は、クライアントが発注するかどうかを判断するための「意思決定支援ドキュメント」です。課題解決の筋道を示し、信頼関係を築き、プロジェクトの範囲を明確にすることで、相手が抱える不安や不確実性を取り除きます。単なる依頼ではなく、経営資源を正しく配分するための根拠資料として機能することが重要です。

課題解決の提示

提案書では「何を・なぜ・どのように変えるのか」を、ユーザー体験と事業成果の両面から描く必要があります。UXデザインの役割は、問題と解決を結び直し、論理的に伝えることにあります。

信頼関係の構築

いきなり資料を作り込むのではなく、口頭でのプロトタイプ的なプレゼン→原稿化→スライド化と段階を踏むことで、言葉の精度が高まり、相手に伝わる提案になります。

プロジェクト範囲の明確化

UX提案書はステークホルダー全員に意図と範囲を理解してもらうための媒体でもあります。支払い条件や期限といった“後で揉めやすいポイント”も、最初から盛り込んでおくことで、運営上の摩擦を大幅に減らすことができます。

契約前マネジメントとしての役割

提案書は単なる「受注のための資料」ではありません。契約前の段階から、プロジェクト運営を安定させる“プロジェクトマネジメントの前倒し”としての役割を果たします。実際、契約後に仕様変更や追加費用を巡ってトラブルになるケースの多くは、提案書でリスク範囲や判断基準が明示されていなかったことに起因します。提案段階で「この条件なら追加見積もりが必要」と線引きをしておけば、後々の不必要な衝突を避けられます。

――ここまでで提案書の役割が整理できました。次は「勝てる提案書の型」を具体的に解説していきます。

案件獲得につながる提案書の基本構造

良い提案書は、ただ情報を並べるのではなく「結論→根拠→実行方法→投資回収」の順で、読み手を自然に納得させる流れを持っています。この流れを押さえることで、相手が迷わず意思決定できるようになります。構成の中心となるのは次の4つです。

  1. 課題の深堀りと現状分析

  2. ソリューション提案

  3. 実行計画と成果物の提示

  4. 投資対効果(ROI)の説明

課題の深堀りと現状分析

「アプリをリニューアルしたい」といった要望の背景には、もっと根本的な課題が隠れていることが多いです。

例えばECサイトの場合、セッション数、商品閲覧、カート投入、購入完了という流れを分解して、どの段階でユーザーが離脱しているかを特定します。数値データ(アクセス解析やNPS調査)だけでなく、レビューや問い合わせといった声も組み合わせると、課題の輪郭が鮮明になります。

ここで役立つのが「UI/UXデザイン ワークショップ」です。初回に1.5〜2時間のセッションを設定し、KPI(重要指標)の確認、ペルソナの業務文脈整理、障害要因の洗い出しを行います。成果物は議事録ではなく「次に取るべき3つの行動(Next 3)」にまとめると、そのままスコープ定義や見積もりに繋げられます。

さらに、ワークショップではクライアント自身も気づいていない制約を表に出すことが重要です。たとえば「送料を早めに表示したい」と提案しても、実際には複数の倉庫システムが統合できない、あるいは契約上外部システムに接続できないなどの制約があるかもしれません。こうした前提を早く押さえておくことで、代替案を含めた現実的な提案ができます。

ソリューション提案の具体化と差別化

提案の肝は「デザイン案」ではなく「事業成果に繋がる解決策」を示すことです。

例えば「比較表に固定ヘッダーをつけ、最安値をバッジ表示し、送料を早めに見せる」といった改善は、確かにCVR(購入率)を上げる効果が期待できます。ただし、その裏側では価格データを正しく管理する仕組みやCMS(コンテンツ管理)の改修も必要になります。ここまで具体的に書くと、提案は単なる“絵”ではなく、実現可能な“仕組み”として信頼を得られます。

さらに差別化には、プロセスの設計も有効です。施策を「効果の大きさ×実現性」で評価して優先順位を決め、A/Bテストの設計(指標、サンプル数、検証期間)まで提示すると説得力が増します。また、ワークショップで合意した判断基準(例:主要KPIが±3%動いたらGo/NoGo)を再掲すると、決定が早まります。

プロジェクト実行計画と成果物の明示

実行計画は「誰が・いつ・どこまで担当するか」が一目でわかる形にまとめます。大まかに3フェーズに分けると理解されやすいです。

  • Phase1(週1〜2):ワークショップと調査。データを統合し、仮説を整理。KPIと測定方法を確定。

  • Phase2(週3〜6):デザインスプリントを繰り返し、優先度の高い案をプロトタイプ化。ユーザーテストやA/Bテストを実施。

  • Phase3(週7〜8):最終UIを確定し、アクセシビリティ基準に適合。デザインシステムに反映し、実装をサポート。

成果物としては、ユーザーフロー図、モックアップ、ABテスト設計書、アクセシビリティ監査結果、受け入れ基準などがあります。これらをプロダクト要件(PRD)と結びつけると、開発チームとの橋渡しがスムーズになります。

投資対効果の論理的説明

最後にROI(投資対効果)の説明です。これは「数字で納得させる」部分。

例:

  • 月間セッション数:150,000

  • CVR:2.4% → 改善後2.9%

  • 平均注文額:¥6,200

  • 利益率:35%

この場合、改善によって月750件の注文増加、売上約465万円増、利益約163万円増が見込めます。プロジェクト費用が300万円なら、約2ヶ月で回収可能です。

さらに提案する改善施策の効果を「最悪・標準・最高」の3つのケースに分けて試算し、測定方法と一緒に示せば、経営層は安心して判断できます。

提案書作成における戦略的事前調査と情報収集術

提案書の成否は、準備段階の調査に大きく左右されます。限られた時間であっても「幅広く浅く」ではなく「狭く深く」。本当に意思決定に効く情報を取りにいくことが重要です。

クライアント企業の徹底リサーチ手法

  • 財務と戦略の把握:IR資料やプレスリリースから売上の内訳や重点施策を確認します。

  • 組織課題の推測:求人票から「どのポジションを強化しているか」を読み取り、内部の課題を推定します。

  • ユーザーの声を収集:アプリストアのレビューやSNS上のコメントから、実際の利用体験や不満点を拾います。

  • 技術基盤を確認:採用ページやソースコードのタグを見れば、使っている技術が推測でき、実現可能性を判断できます。

  • 改善余地を特定:CSログやチャット履歴は「困りごと」が凝縮された情報源。ワークショップで議題にすべきポイントを見つけられます。

ステークホルダー分析と意思決定構造の把握

提案が通るかどうかは「誰が決めるか」で変わります。権限と関心をマッピングし、誰の同意が必要かを整理します。また、稟議フロー(誰が起票し、誰が承認するのか)を事前に確認し、提案スケジュールに反映させます。ワークショップで意思決定の基準を合意しておけば、後からの修正や追加調整を減らすことができます。

競合分析とポジショニング戦略

比較は「機能の数」ではなく「体験の質」で行います。

発見しやすさ、操作のしやすさ、信頼性、表示速度、アクセシビリティといった観点で横並びに比較し、自社が優位に立てるポイントを探します。そこで導き出した差別化仮説を1枚にまとめ、最小限のプロトタイプやテスト計画として提示すると、現実味のある提案になります。

説得力を高める文章構成

情報が多くても「読みやすい」と感じさせるのは、文章の美しさではなく構造の工夫です。PREP法を基盤に、ストーリーテリングの温度感や専門用語の翻訳力を加えると、読み手を動かせる提案になります。

PREP法を活用した論理的文章構成

PREP(Point / Reason / Example / Point)は、1つの主張を1スライドで完結させるための型です。

例:

  • Point(結論):「チェックアウト前に送料を表示するとCVRが改善します」

  • Reason(理由):「購入直前のコスト不確実性が障壁になっているためです」

  • Example(例):「3つの送料プランをカード下に固定表示し、合計金額を即時計算します」

  • Point(再結論):「テストで+0.3pt以上改善すれば、全ユーザーに展開します」

各スライドを「1主張1根拠」で構成し、章の冒頭と末尾で結論を重ねると要点が印象に残ります。

ストーリーテリングによる感情的訴求

ストーリーは大げさに語るのではなく「文脈を取り戻す」手段です。状況→葛藤→意思決定→変化という短い流れを描くことで、データだけでは伝わらない価値を補完します。

例:比較検討で迷うユーザー“彩さん”。合計額が最後までわからず不安→送料の先出し表示で安心→「試してみよう」と購入に踏み出す。この短い物語が、KPIの裏にある人間的な動機を想起させます。

専門用語の適切な使い分けと説明

提案の読み手にはリテラシーの差があります。そこで「二層の表現」を意識しましょう。本文は平易な言葉で、専門用語は括弧で定義を添える。さらに数字も「CVR+0.5pt」ではなく「月750件の追加注文」と具体的な単位に翻訳することで、理解のスピードと納得感が増します。

クライアント別の提案書カスタマイズ

提案書は「誰に向けるか」で有効性が大きく変わります。企業の規模、業界の特性、クライアントとの関係性に応じて、論点の強調や証拠の置き方を調整することが大切です。

スタートアップ向けアジャイル提案手法

スタートアップは予算も時間も限られているため、「今すぐ効果が出る最小構成」に絞るのが鉄則です。Dual-Track Agile(探索と実装を同時進行する方法)を前提に、仮説のリストと検証計画をセットで提示します。また、成果物をマイルストーンごとに分割し、段階的に合意を取りながら進めることで、経営層の心理的な安心感を確保できます。

スタートアップにはUXリサーチャーが不在なケースも多いため、提案書に簡易的なユーザー調査やインタビュー計画を含めておくと評価が高まります。

大企業向け詳細提案書の作成要領

大企業では、承認者が多く、稟議(社内決裁)を通すことが一番の壁になります。ここでは「持ち運ばれる資料」を意識し、誰が見ても判断できる内容に仕上げることが重要です。

PoC(試験導入)→限定リリース→全社展開といった段階的な実行計画、監査証跡(承認ログや要件トレーサビリティ)、セキュリティや法務のQ&Aを先に提示することで、承認スピードが上がります。特にセキュリティや個人情報の扱いは承認のボトルネックになりやすいため、コンプライアンス部門に向けた補足資料を添付しておくのが有効です。

業界特化型ソリューションの提案方法

金融や医療、EC、教育といった業界には、固有の規制や制約があります。こうした領域では、UIの見た目を見せる前に「制約下でどう最適化するか」をテキストで筋立てて説明することが求められます。

例えば金融なら「本人確認や同意取得の透明性」、医療なら「誤操作防止や色覚多様性への配慮」、ECなら「在庫・配送・価格といった不確実性の管理」、教育なら「学習履歴の可搬性や倫理配慮」など。それぞれの業界特性に即した解決策を提案書に盛り込むことで、説得力が高まります。

継続案件と新規案件の提案戦略の違い

継続案件と新規案件では、提案の焦点が異なります。

  • 継続案件:既存のクライアントには「改善の積み重ね」が評価されるため、リテンション(継続利用)や業務効率化に焦点を当てます。

  • 新規案件:初めてのクライアントには「短期間で目に見える成果」が信頼構築のカギ。小さなクイックウィンを最初に置き、早い段階で成果を示すことが重要です。

どちらの場合も、意思決定の速さをKPIの一つとして設定すると、クライアントとの関係が長期的に安定しやすくなります。

まとめ

勝てる提案書は、ビジュアルの美しさだけでは足りません。クライアントが「これなら社内で通せる」と感じるような、実務的な安心感を与えることが欠かせません。

そのためには、デザイン案に加えて「リスク管理」「予算の妥当性」「実行体制」を含めた事業推進のためのパッケージとして提案書を作る視点が必要です。提案書を単なる資料ではなく、クライアントの意思決定を動かすツールとして捉えることが、案件獲得と信頼構築の近道になります。

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勝てる提案書とは、単なる情報の寄せ集めではなく、相手の意思決定を前へ進めるための「設計図」です。この設計図があるからこそ、案件獲得やキャリア発展のチャンスが広がります。この記事では、UI/UXの実務に基づいた提案書の作り方を、ワークショップ設計やROI(投資対効果)の説明方法まで具体的に解説します。読み終える頃には、次の提案を自信を持って組み立てられる状態になっているはずです。

提案書が果たす重要な機能

提案書は、クライアントが発注するかどうかを判断するための「意思決定支援ドキュメント」です。課題解決の筋道を示し、信頼関係を築き、プロジェクトの範囲を明確にすることで、相手が抱える不安や不確実性を取り除きます。単なる依頼ではなく、経営資源を正しく配分するための根拠資料として機能することが重要です。

課題解決の提示

提案書では「何を・なぜ・どのように変えるのか」を、ユーザー体験と事業成果の両面から描く必要があります。UXデザインの役割は、問題と解決を結び直し、論理的に伝えることにあります。

信頼関係の構築

いきなり資料を作り込むのではなく、口頭でのプロトタイプ的なプレゼン→原稿化→スライド化と段階を踏むことで、言葉の精度が高まり、相手に伝わる提案になります。

プロジェクト範囲の明確化

UX提案書はステークホルダー全員に意図と範囲を理解してもらうための媒体でもあります。支払い条件や期限といった“後で揉めやすいポイント”も、最初から盛り込んでおくことで、運営上の摩擦を大幅に減らすことができます。

契約前マネジメントとしての役割

提案書は単なる「受注のための資料」ではありません。契約前の段階から、プロジェクト運営を安定させる“プロジェクトマネジメントの前倒し”としての役割を果たします。実際、契約後に仕様変更や追加費用を巡ってトラブルになるケースの多くは、提案書でリスク範囲や判断基準が明示されていなかったことに起因します。提案段階で「この条件なら追加見積もりが必要」と線引きをしておけば、後々の不必要な衝突を避けられます。

――ここまでで提案書の役割が整理できました。次は「勝てる提案書の型」を具体的に解説していきます。

案件獲得につながる提案書の基本構造

良い提案書は、ただ情報を並べるのではなく「結論→根拠→実行方法→投資回収」の順で、読み手を自然に納得させる流れを持っています。この流れを押さえることで、相手が迷わず意思決定できるようになります。構成の中心となるのは次の4つです。

  1. 課題の深堀りと現状分析

  2. ソリューション提案

  3. 実行計画と成果物の提示

  4. 投資対効果(ROI)の説明

課題の深堀りと現状分析

「アプリをリニューアルしたい」といった要望の背景には、もっと根本的な課題が隠れていることが多いです。

例えばECサイトの場合、セッション数、商品閲覧、カート投入、購入完了という流れを分解して、どの段階でユーザーが離脱しているかを特定します。数値データ(アクセス解析やNPS調査)だけでなく、レビューや問い合わせといった声も組み合わせると、課題の輪郭が鮮明になります。

ここで役立つのが「UI/UXデザイン ワークショップ」です。初回に1.5〜2時間のセッションを設定し、KPI(重要指標)の確認、ペルソナの業務文脈整理、障害要因の洗い出しを行います。成果物は議事録ではなく「次に取るべき3つの行動(Next 3)」にまとめると、そのままスコープ定義や見積もりに繋げられます。

さらに、ワークショップではクライアント自身も気づいていない制約を表に出すことが重要です。たとえば「送料を早めに表示したい」と提案しても、実際には複数の倉庫システムが統合できない、あるいは契約上外部システムに接続できないなどの制約があるかもしれません。こうした前提を早く押さえておくことで、代替案を含めた現実的な提案ができます。

ソリューション提案の具体化と差別化

提案の肝は「デザイン案」ではなく「事業成果に繋がる解決策」を示すことです。

例えば「比較表に固定ヘッダーをつけ、最安値をバッジ表示し、送料を早めに見せる」といった改善は、確かにCVR(購入率)を上げる効果が期待できます。ただし、その裏側では価格データを正しく管理する仕組みやCMS(コンテンツ管理)の改修も必要になります。ここまで具体的に書くと、提案は単なる“絵”ではなく、実現可能な“仕組み”として信頼を得られます。

さらに差別化には、プロセスの設計も有効です。施策を「効果の大きさ×実現性」で評価して優先順位を決め、A/Bテストの設計(指標、サンプル数、検証期間)まで提示すると説得力が増します。また、ワークショップで合意した判断基準(例:主要KPIが±3%動いたらGo/NoGo)を再掲すると、決定が早まります。

プロジェクト実行計画と成果物の明示

実行計画は「誰が・いつ・どこまで担当するか」が一目でわかる形にまとめます。大まかに3フェーズに分けると理解されやすいです。

  • Phase1(週1〜2):ワークショップと調査。データを統合し、仮説を整理。KPIと測定方法を確定。

  • Phase2(週3〜6):デザインスプリントを繰り返し、優先度の高い案をプロトタイプ化。ユーザーテストやA/Bテストを実施。

  • Phase3(週7〜8):最終UIを確定し、アクセシビリティ基準に適合。デザインシステムに反映し、実装をサポート。

成果物としては、ユーザーフロー図、モックアップ、ABテスト設計書、アクセシビリティ監査結果、受け入れ基準などがあります。これらをプロダクト要件(PRD)と結びつけると、開発チームとの橋渡しがスムーズになります。

投資対効果の論理的説明

最後にROI(投資対効果)の説明です。これは「数字で納得させる」部分。

例:

  • 月間セッション数:150,000

  • CVR:2.4% → 改善後2.9%

  • 平均注文額:¥6,200

  • 利益率:35%

この場合、改善によって月750件の注文増加、売上約465万円増、利益約163万円増が見込めます。プロジェクト費用が300万円なら、約2ヶ月で回収可能です。

さらに提案する改善施策の効果を「最悪・標準・最高」の3つのケースに分けて試算し、測定方法と一緒に示せば、経営層は安心して判断できます。

提案書作成における戦略的事前調査と情報収集術

提案書の成否は、準備段階の調査に大きく左右されます。限られた時間であっても「幅広く浅く」ではなく「狭く深く」。本当に意思決定に効く情報を取りにいくことが重要です。

クライアント企業の徹底リサーチ手法

  • 財務と戦略の把握:IR資料やプレスリリースから売上の内訳や重点施策を確認します。

  • 組織課題の推測:求人票から「どのポジションを強化しているか」を読み取り、内部の課題を推定します。

  • ユーザーの声を収集:アプリストアのレビューやSNS上のコメントから、実際の利用体験や不満点を拾います。

  • 技術基盤を確認:採用ページやソースコードのタグを見れば、使っている技術が推測でき、実現可能性を判断できます。

  • 改善余地を特定:CSログやチャット履歴は「困りごと」が凝縮された情報源。ワークショップで議題にすべきポイントを見つけられます。

ステークホルダー分析と意思決定構造の把握

提案が通るかどうかは「誰が決めるか」で変わります。権限と関心をマッピングし、誰の同意が必要かを整理します。また、稟議フロー(誰が起票し、誰が承認するのか)を事前に確認し、提案スケジュールに反映させます。ワークショップで意思決定の基準を合意しておけば、後からの修正や追加調整を減らすことができます。

競合分析とポジショニング戦略

比較は「機能の数」ではなく「体験の質」で行います。

発見しやすさ、操作のしやすさ、信頼性、表示速度、アクセシビリティといった観点で横並びに比較し、自社が優位に立てるポイントを探します。そこで導き出した差別化仮説を1枚にまとめ、最小限のプロトタイプやテスト計画として提示すると、現実味のある提案になります。

説得力を高める文章構成

情報が多くても「読みやすい」と感じさせるのは、文章の美しさではなく構造の工夫です。PREP法を基盤に、ストーリーテリングの温度感や専門用語の翻訳力を加えると、読み手を動かせる提案になります。

PREP法を活用した論理的文章構成

PREP(Point / Reason / Example / Point)は、1つの主張を1スライドで完結させるための型です。

例:

  • Point(結論):「チェックアウト前に送料を表示するとCVRが改善します」

  • Reason(理由):「購入直前のコスト不確実性が障壁になっているためです」

  • Example(例):「3つの送料プランをカード下に固定表示し、合計金額を即時計算します」

  • Point(再結論):「テストで+0.3pt以上改善すれば、全ユーザーに展開します」

各スライドを「1主張1根拠」で構成し、章の冒頭と末尾で結論を重ねると要点が印象に残ります。

ストーリーテリングによる感情的訴求

ストーリーは大げさに語るのではなく「文脈を取り戻す」手段です。状況→葛藤→意思決定→変化という短い流れを描くことで、データだけでは伝わらない価値を補完します。

例:比較検討で迷うユーザー“彩さん”。合計額が最後までわからず不安→送料の先出し表示で安心→「試してみよう」と購入に踏み出す。この短い物語が、KPIの裏にある人間的な動機を想起させます。

専門用語の適切な使い分けと説明

提案の読み手にはリテラシーの差があります。そこで「二層の表現」を意識しましょう。本文は平易な言葉で、専門用語は括弧で定義を添える。さらに数字も「CVR+0.5pt」ではなく「月750件の追加注文」と具体的な単位に翻訳することで、理解のスピードと納得感が増します。

クライアント別の提案書カスタマイズ

提案書は「誰に向けるか」で有効性が大きく変わります。企業の規模、業界の特性、クライアントとの関係性に応じて、論点の強調や証拠の置き方を調整することが大切です。

スタートアップ向けアジャイル提案手法

スタートアップは予算も時間も限られているため、「今すぐ効果が出る最小構成」に絞るのが鉄則です。Dual-Track Agile(探索と実装を同時進行する方法)を前提に、仮説のリストと検証計画をセットで提示します。また、成果物をマイルストーンごとに分割し、段階的に合意を取りながら進めることで、経営層の心理的な安心感を確保できます。

スタートアップにはUXリサーチャーが不在なケースも多いため、提案書に簡易的なユーザー調査やインタビュー計画を含めておくと評価が高まります。

大企業向け詳細提案書の作成要領

大企業では、承認者が多く、稟議(社内決裁)を通すことが一番の壁になります。ここでは「持ち運ばれる資料」を意識し、誰が見ても判断できる内容に仕上げることが重要です。

PoC(試験導入)→限定リリース→全社展開といった段階的な実行計画、監査証跡(承認ログや要件トレーサビリティ)、セキュリティや法務のQ&Aを先に提示することで、承認スピードが上がります。特にセキュリティや個人情報の扱いは承認のボトルネックになりやすいため、コンプライアンス部門に向けた補足資料を添付しておくのが有効です。

業界特化型ソリューションの提案方法

金融や医療、EC、教育といった業界には、固有の規制や制約があります。こうした領域では、UIの見た目を見せる前に「制約下でどう最適化するか」をテキストで筋立てて説明することが求められます。

例えば金融なら「本人確認や同意取得の透明性」、医療なら「誤操作防止や色覚多様性への配慮」、ECなら「在庫・配送・価格といった不確実性の管理」、教育なら「学習履歴の可搬性や倫理配慮」など。それぞれの業界特性に即した解決策を提案書に盛り込むことで、説得力が高まります。

継続案件と新規案件の提案戦略の違い

継続案件と新規案件では、提案の焦点が異なります。

  • 継続案件:既存のクライアントには「改善の積み重ね」が評価されるため、リテンション(継続利用)や業務効率化に焦点を当てます。

  • 新規案件:初めてのクライアントには「短期間で目に見える成果」が信頼構築のカギ。小さなクイックウィンを最初に置き、早い段階で成果を示すことが重要です。

どちらの場合も、意思決定の速さをKPIの一つとして設定すると、クライアントとの関係が長期的に安定しやすくなります。

まとめ

勝てる提案書は、ビジュアルの美しさだけでは足りません。クライアントが「これなら社内で通せる」と感じるような、実務的な安心感を与えることが欠かせません。

そのためには、デザイン案に加えて「リスク管理」「予算の妥当性」「実行体制」を含めた事業推進のためのパッケージとして提案書を作る視点が必要です。提案書を単なる資料ではなく、クライアントの意思決定を動かすツールとして捉えることが、案件獲得と信頼構築の近道になります。

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