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UXリサーチが企業にもたらすメリットとは?導入効果・コスト・成功事例を解説
投稿日:
2024.01.01
UXリサーチは、ユーザーの行動や心理を調べ、サービスやプロダクトをより良くするための活動です。直感や経験だけに頼らず、根拠を持って意思決定できるようにするのが大きな役割です。ここ数年で、UXリサーチを取り入れた企業が顧客満足度を高めたり、開発効率を改善したりする事例が増えています。海外では「UXリサーチを行わずに開発を進めるのは、地図を持たずに航海に出るようなもの」とも言われるほどです。本記事では、UXリサーチの基本から、導入によるメリット、コストやROI(投資対効果)、実際の事例までをわかりやすく解説します。ぜひ最後までご覧ください。
UXリサーチとは?
まずはUXリサーチの全体像を押さえておきましょう。UXリサーチとは、ユーザーの行動やニーズを観察・調査し、その結果をもとに施策や改善案を導き出す活動です。ユーザー中心設計(UCD: User Centered Design)の土台ともいえる存在で、プロダクト開発においては「作る前に確かめる」「作った後に検証する」両面を担います。定性的な調査(インタビューや観察)と定量的な調査(ログやアンケート)を組み合わせ、事実に基づいた意思決定を行うための出発点になります。
定義と役割
UXリサーチは大きく4つの役割を果たします。①課題を発見する、②機会領域を見つける、③施策の妥当性を確認する、④リリース後の改善点を探す、です。
たとえば「ユーザーがどの場面でつまずいているか」を調べることで、UIの改善ポイントを早期に見つけられます。また、利用者が言語化できていない潜在的な欲求を拾うことで、競合にはない新しい機能開発のヒントも得られます。UXリサーチは、社内の感覚や思い込みを事実に基づく情報へ変える“翻訳者”のような存在だと理解するとわかりやすいでしょう。
UXリサーチの主な手法
代表的な手法には以下があります。
ユーザーインタビュー:利用背景や動機を深掘りする。半構造化形式で「なぜそうしたのか」を問い直すことで、隠れた課題が見つかります。
ユーザビリティテスト(UT):実際の操作を観察し、行動を記録。タスク成功率や所要時間、誤操作率といった数値に落とし込める点が強みです。
アンケート調査:態度や満足度を数値で可視化。セグメントごとの傾向を把握するのに有効ですが、設問設計が甘いと有効データが取れないため注意が必要です。
アクセス解析・ログ分析:Webやアプリの利用データをもとに、ファネル(行動の流れ)のどこで離脱が多いかを特定します。大規模ユーザーを対象にできる点がメリットです。
近年はリモート環境での調査が一般化し、参加者の生活文脈を崩さずに行える点が評価されています。また、AIを活用してユーザー発話を自動で分類する仕組みも登場しており、調査工数は確実に減っています。
――ここまででリサーチの基本が見えました。次は、企業が導入することで得られる具体的なメリットを紹介します。
企業がUXリサーチを導入するメリット
UXリサーチの真価は「意思決定を早く、正確にできる」点にあります。現場の肌感覚にデータを加えることで、施策の議論に根拠が生まれ、無駄な開発や修正を避けられます。ここでは主要なメリットを5つに整理します。
顧客満足度・ユーザー体験の向上
リサーチを行うと、ユーザーが不便に感じている点を具体的に知ることができます。UIの文言や導線の小さな違和感を修正するだけで、体験の快適さは大きく変わります。
実際、JOOiの調査ではイベント参加者の満足度が「4〜5(5段階評価)」と答えた人が75.2%、実務にすぐ活かせると答えた人が62.1%に達しました。これは、細やかな改善が体験品質の向上につながることを示しています。
プロダクトの成功確率向上
新しい機能やサービスが失敗する理由の多くは「間違った問い」に答えようとしているからです。開発の初期段階でユーザーの声を拾い上げることで、不要な方向に進むリスクを減らせます。特にSaaSや金融のように専門知識が必要な領域では、リサーチの価値が一層高まります。
JOOiに登録しているデザイナーのうち、SaaS経験者は53.1%、金融経験者は51.2%と豊富で、こうした背景がプロジェクト成功を後押しします。
開発コスト・工数の削減
後工程での修正は時間もコストも膨らみます。UXリサーチで課題を事前に見つけておけば、不要な実装や大きな仕様変更を防ぐことができます。ちょっとした改善、例えばマイクロコピーの修正やエラーメッセージの見直しでも、問い合わせ件数を減らし、開発チームの負担を軽くできます。
競争優位性の確保
UXの改善は競合との差別化にもつながります。他社と似たような機能を提供していても、体験の滑らかさや安心感で差をつけることが可能です。体験が積み上がれば、ブランド価値が安定し、顧客獲得コストを抑えながら成長できます。
データドリブンな意思決定
数値や観察データを根拠にすれば、関係者間の合意形成がスムーズになります。たとえば「初期設定に30分かかっている」という事実があれば、優先すべき改善は明確です。データは共通言語となり、意思決定のスピードを高めます。
――次に、実際の企業での導入事例を見てみましょう。
具体的な導入事例
ここでは、Webサービス、ECサイト、BtoBサービスの3つの事例を紹介します。それぞれの課題とリサーチでの気づき、改善後の成果を整理します。
Webサービス企業の事例
新機能の利用率が想定より低く、サポートへの問い合わせが増えていました。リモートでのユーザビリティテストを行った結果、初期設定画面の文言がわかりにくいことが原因と判明しました。改善後、初回利用完了率が18%向上し、問い合わせ件数も減少しました。
ECサイトの事例
カート投入数は増えているのに、決済直前での離脱が多発していました。行動ログとモバイルユーザビリティテストを組み合わせると、配送オプションの説明不足やフォームの不具合が明らかになりました。修正後、決済完了率が12%改善しました。
BtoBサービスの事例
重要機能が浸透せず、導入教育に手間がかかっていました。現場観察を行うと、既存の業務フローとの不整合が課題であることが判明しました。入力台帳の自動取り込みを導入すると、利用率が21%上がり、顧客の定着度も改善しました。
UXリサーチ導入のコストと期間
リサーチの費用は、対象ユーザーの希少性や調査手法の種類で大きく変わります。ここでは一般的な目安を紹介します。
小規模リサーチのコスト目安
ユーザーインタビューや簡易アンケートなど、小規模な調査は30〜80万円程度で2〜3週間あれば実施できます。社内にユーザーパネルがある場合はさらに低コストで可能です。
本格的なリサーチのコスト・期間
新市場への参入や多言語対応など、本格的な調査では200〜800万円、6〜12週間かかることもあります。特に希少なBtoBユーザーのリクルーティングや、複数国での比較調査を行う場合はさらにコストが上がります。
例:新しいSaaSツールを欧州市場に展開する場合、現地ユーザー15名へのインタビュー+オンラインアンケートn=500を実施すると、期間は3か月、コストは約600万円規模になるケースもあります。
投資対効果を高める工夫
リサーチの成果を出すには、段階的に進めることが重要です。小さく始めて成果を確認しながら規模を拡大するアプローチが有効です。ResearchOps(リサーチの運用基盤)を整えると、調査の効率や再現性が高まり、費用対効果も上がります。
UXリサーチによるROI事例
UXリサーチの価値は、数字として明確に表れます。ここではコンバージョン率(CVR)、開発コスト、顧客維持率といった指標に与える効果を整理します。
コンバージョン率改善の数値効果
オンボーディング体験を見直すだけで、CVRが10〜30%改善することは珍しくありません。例えば、月間セッション数100万・現状CVR2%・平均客単価5,000円のECサイトで、CVRが2.3%に改善すると、売上は月1,500万円増加します。JOOiのイベント調査でも、参加者の62.1%が「実務にすぐ活かせる」と評価しており、改善施策を短期で成果に結びつけられる可能性を示しています。
開発コスト削減の効果
設計段階で課題を特定すると、リリース後に修正する場合と比べてコストは1/5〜1/10で済むことがあります。ユーザビリティ起因の問い合わせを減らすことができれば、サポート工数も削減できます。小さなUI改修によって不要な実装を20〜40%抑えられた事例もあり、結果的に年間の開発原価削減につながります。
顧客維持率向上の効果
UXリサーチで「継続利用の壁」を特定すれば、解約率を下げることが可能です。解約前に代替案を提示する、未利用期間が長いユーザーに復帰導線を提供する、といった施策で解約率を1〜3ポイント改善できるケースがあります。これによりLTV(顧客生涯価値)が向上し、長期的な収益に大きく貢献します。
UXリサーチ導入のポイント
リサーチを成功させるには「小さく始めて、成果を共有し、継続する」ことが重要です。
小規模から始めるアプローチ
最初のステップは小規模調査です。例えば、ユーザビリティテストを5人に実施し、行動ログを1つの指標で追う。このようにシンプルな範囲で始めれば、早期に成果を確認できます。その後、改善施策を小さく試し、成功体験をチーム全体で共有することが次の一歩につながります。
経営層・チームを巻き込む重要性
UXリサーチは部門横断的な活動であるため、経営層やチームを巻き込むことが欠かせません。調査結果をダイジェスト動画や1枚のサマリーにまとめて共有すれば、合意形成がスムーズになります。また「何を達成できれば成功か」をあらかじめ定義しておくと、意思決定が速くなります。
継続的なリサーチの実施
単発の調査ではなく、隔週や月次で継続的に行うことで組織に知見が蓄積されます。ResearchOpsを導入すれば、パネル管理や調査設計を効率化でき、再利用可能な知見として社内に残せます。
UXリサーチの今後の重要性
デジタル化が加速し、競争環境が変化する中で、UXリサーチの重要性はますます高まっています。
デジタル化・DX推進との関係
DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるデジタル化ではなく、業務や体験そのものを再設計する取り組みです。UXリサーチは現場の実態を把握し、DXを成功させるための判断材料を提供します。
グローバル展開への貢献
海外市場では文化や習慣が異なるため、日本の前提で設計したUIは必ずしも通用しません。現地での行動観察やインタビューを通じてローカライズの精度を高めれば、ブランド体験を損なわずに展開できます。
AI時代におけるUXリサーチ
生成AIや自動化技術が普及しても、ユーザー体験の本質を捉える「現場での理解」は代替されません。むしろAIによる自動生成が進むからこそ「人間がどこで迷うか」「どこに不信感を持つか」を明確にできるリサーチの価値は高まります。
人材需要の高まり
UXリサーチのニーズは高まる一方です。JOOiの登録デザイナーのうち、90.8%がディレクション経験を持ち、FigmaやPhotoshopなどの主要ツールにも精通しています。こうした人材はリサーチと実装を橋渡しできるため、組織の成長に直結します。
まとめ:企業にとってのUXリサーチの価値
ROI改善に直結する活動
UXリサーチは「何を作るか」と「どう作るか」の両方の精度を上げます。CVRや継続率といったKPIを改善するだけでなく、無駄な開発を減らすことで収益に直結します。JOOiの調査でも、現場で実践できる知見が多くの支持を得ています。
長期的な競争力強化
リサーチを継続すると、意思決定は感覚や声の大きさではなく、根拠に基づいて行われます。その結果、プロダクトの一貫性が高まり、ブランド価値の向上や持続的な成長につながります。
―UXリサーチは「見えない摩擦」を可視化し、意思決定を強くする活動です。最初の一歩は小さくても十分です。ユーザビリティテストから始め、改善の成果をチームで共有してみてください。
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UXリサーチとは?
まずはUXリサーチの全体像を押さえておきましょう。UXリサーチとは、ユーザーの行動やニーズを観察・調査し、その結果をもとに施策や改善案を導き出す活動です。ユーザー中心設計(UCD: User Centered Design)の土台ともいえる存在で、プロダクト開発においては「作る前に確かめる」「作った後に検証する」両面を担います。定性的な調査(インタビューや観察)と定量的な調査(ログやアンケート)を組み合わせ、事実に基づいた意思決定を行うための出発点になります。
定義と役割
UXリサーチは大きく4つの役割を果たします。①課題を発見する、②機会領域を見つける、③施策の妥当性を確認する、④リリース後の改善点を探す、です。
たとえば「ユーザーがどの場面でつまずいているか」を調べることで、UIの改善ポイントを早期に見つけられます。また、利用者が言語化できていない潜在的な欲求を拾うことで、競合にはない新しい機能開発のヒントも得られます。UXリサーチは、社内の感覚や思い込みを事実に基づく情報へ変える“翻訳者”のような存在だと理解するとわかりやすいでしょう。
UXリサーチの主な手法
代表的な手法には以下があります。
ユーザーインタビュー:利用背景や動機を深掘りする。半構造化形式で「なぜそうしたのか」を問い直すことで、隠れた課題が見つかります。
ユーザビリティテスト(UT):実際の操作を観察し、行動を記録。タスク成功率や所要時間、誤操作率といった数値に落とし込める点が強みです。
アンケート調査:態度や満足度を数値で可視化。セグメントごとの傾向を把握するのに有効ですが、設問設計が甘いと有効データが取れないため注意が必要です。
アクセス解析・ログ分析:Webやアプリの利用データをもとに、ファネル(行動の流れ)のどこで離脱が多いかを特定します。大規模ユーザーを対象にできる点がメリットです。
近年はリモート環境での調査が一般化し、参加者の生活文脈を崩さずに行える点が評価されています。また、AIを活用してユーザー発話を自動で分類する仕組みも登場しており、調査工数は確実に減っています。
――ここまででリサーチの基本が見えました。次は、企業が導入することで得られる具体的なメリットを紹介します。
企業がUXリサーチを導入するメリット
UXリサーチの真価は「意思決定を早く、正確にできる」点にあります。現場の肌感覚にデータを加えることで、施策の議論に根拠が生まれ、無駄な開発や修正を避けられます。ここでは主要なメリットを5つに整理します。
顧客満足度・ユーザー体験の向上
リサーチを行うと、ユーザーが不便に感じている点を具体的に知ることができます。UIの文言や導線の小さな違和感を修正するだけで、体験の快適さは大きく変わります。
実際、JOOiの調査ではイベント参加者の満足度が「4〜5(5段階評価)」と答えた人が75.2%、実務にすぐ活かせると答えた人が62.1%に達しました。これは、細やかな改善が体験品質の向上につながることを示しています。
プロダクトの成功確率向上
新しい機能やサービスが失敗する理由の多くは「間違った問い」に答えようとしているからです。開発の初期段階でユーザーの声を拾い上げることで、不要な方向に進むリスクを減らせます。特にSaaSや金融のように専門知識が必要な領域では、リサーチの価値が一層高まります。
JOOiに登録しているデザイナーのうち、SaaS経験者は53.1%、金融経験者は51.2%と豊富で、こうした背景がプロジェクト成功を後押しします。
開発コスト・工数の削減
後工程での修正は時間もコストも膨らみます。UXリサーチで課題を事前に見つけておけば、不要な実装や大きな仕様変更を防ぐことができます。ちょっとした改善、例えばマイクロコピーの修正やエラーメッセージの見直しでも、問い合わせ件数を減らし、開発チームの負担を軽くできます。
競争優位性の確保
UXの改善は競合との差別化にもつながります。他社と似たような機能を提供していても、体験の滑らかさや安心感で差をつけることが可能です。体験が積み上がれば、ブランド価値が安定し、顧客獲得コストを抑えながら成長できます。
データドリブンな意思決定
数値や観察データを根拠にすれば、関係者間の合意形成がスムーズになります。たとえば「初期設定に30分かかっている」という事実があれば、優先すべき改善は明確です。データは共通言語となり、意思決定のスピードを高めます。
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具体的な導入事例
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Webサービス企業の事例
新機能の利用率が想定より低く、サポートへの問い合わせが増えていました。リモートでのユーザビリティテストを行った結果、初期設定画面の文言がわかりにくいことが原因と判明しました。改善後、初回利用完了率が18%向上し、問い合わせ件数も減少しました。
ECサイトの事例
カート投入数は増えているのに、決済直前での離脱が多発していました。行動ログとモバイルユーザビリティテストを組み合わせると、配送オプションの説明不足やフォームの不具合が明らかになりました。修正後、決済完了率が12%改善しました。
BtoBサービスの事例
重要機能が浸透せず、導入教育に手間がかかっていました。現場観察を行うと、既存の業務フローとの不整合が課題であることが判明しました。入力台帳の自動取り込みを導入すると、利用率が21%上がり、顧客の定着度も改善しました。
UXリサーチ導入のコストと期間
リサーチの費用は、対象ユーザーの希少性や調査手法の種類で大きく変わります。ここでは一般的な目安を紹介します。
小規模リサーチのコスト目安
ユーザーインタビューや簡易アンケートなど、小規模な調査は30〜80万円程度で2〜3週間あれば実施できます。社内にユーザーパネルがある場合はさらに低コストで可能です。
本格的なリサーチのコスト・期間
新市場への参入や多言語対応など、本格的な調査では200〜800万円、6〜12週間かかることもあります。特に希少なBtoBユーザーのリクルーティングや、複数国での比較調査を行う場合はさらにコストが上がります。
例:新しいSaaSツールを欧州市場に展開する場合、現地ユーザー15名へのインタビュー+オンラインアンケートn=500を実施すると、期間は3か月、コストは約600万円規模になるケースもあります。
投資対効果を高める工夫
リサーチの成果を出すには、段階的に進めることが重要です。小さく始めて成果を確認しながら規模を拡大するアプローチが有効です。ResearchOps(リサーチの運用基盤)を整えると、調査の効率や再現性が高まり、費用対効果も上がります。
UXリサーチによるROI事例
UXリサーチの価値は、数字として明確に表れます。ここではコンバージョン率(CVR)、開発コスト、顧客維持率といった指標に与える効果を整理します。
コンバージョン率改善の数値効果
オンボーディング体験を見直すだけで、CVRが10〜30%改善することは珍しくありません。例えば、月間セッション数100万・現状CVR2%・平均客単価5,000円のECサイトで、CVRが2.3%に改善すると、売上は月1,500万円増加します。JOOiのイベント調査でも、参加者の62.1%が「実務にすぐ活かせる」と評価しており、改善施策を短期で成果に結びつけられる可能性を示しています。
開発コスト削減の効果
設計段階で課題を特定すると、リリース後に修正する場合と比べてコストは1/5〜1/10で済むことがあります。ユーザビリティ起因の問い合わせを減らすことができれば、サポート工数も削減できます。小さなUI改修によって不要な実装を20〜40%抑えられた事例もあり、結果的に年間の開発原価削減につながります。
顧客維持率向上の効果
UXリサーチで「継続利用の壁」を特定すれば、解約率を下げることが可能です。解約前に代替案を提示する、未利用期間が長いユーザーに復帰導線を提供する、といった施策で解約率を1〜3ポイント改善できるケースがあります。これによりLTV(顧客生涯価値)が向上し、長期的な収益に大きく貢献します。
UXリサーチ導入のポイント
リサーチを成功させるには「小さく始めて、成果を共有し、継続する」ことが重要です。
小規模から始めるアプローチ
最初のステップは小規模調査です。例えば、ユーザビリティテストを5人に実施し、行動ログを1つの指標で追う。このようにシンプルな範囲で始めれば、早期に成果を確認できます。その後、改善施策を小さく試し、成功体験をチーム全体で共有することが次の一歩につながります。
経営層・チームを巻き込む重要性
UXリサーチは部門横断的な活動であるため、経営層やチームを巻き込むことが欠かせません。調査結果をダイジェスト動画や1枚のサマリーにまとめて共有すれば、合意形成がスムーズになります。また「何を達成できれば成功か」をあらかじめ定義しておくと、意思決定が速くなります。
継続的なリサーチの実施
単発の調査ではなく、隔週や月次で継続的に行うことで組織に知見が蓄積されます。ResearchOpsを導入すれば、パネル管理や調査設計を効率化でき、再利用可能な知見として社内に残せます。
UXリサーチの今後の重要性
デジタル化が加速し、競争環境が変化する中で、UXリサーチの重要性はますます高まっています。
デジタル化・DX推進との関係
DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるデジタル化ではなく、業務や体験そのものを再設計する取り組みです。UXリサーチは現場の実態を把握し、DXを成功させるための判断材料を提供します。
グローバル展開への貢献
海外市場では文化や習慣が異なるため、日本の前提で設計したUIは必ずしも通用しません。現地での行動観察やインタビューを通じてローカライズの精度を高めれば、ブランド体験を損なわずに展開できます。
AI時代におけるUXリサーチ
生成AIや自動化技術が普及しても、ユーザー体験の本質を捉える「現場での理解」は代替されません。むしろAIによる自動生成が進むからこそ「人間がどこで迷うか」「どこに不信感を持つか」を明確にできるリサーチの価値は高まります。
人材需要の高まり
UXリサーチのニーズは高まる一方です。JOOiの登録デザイナーのうち、90.8%がディレクション経験を持ち、FigmaやPhotoshopなどの主要ツールにも精通しています。こうした人材はリサーチと実装を橋渡しできるため、組織の成長に直結します。
まとめ:企業にとってのUXリサーチの価値
ROI改善に直結する活動
UXリサーチは「何を作るか」と「どう作るか」の両方の精度を上げます。CVRや継続率といったKPIを改善するだけでなく、無駄な開発を減らすことで収益に直結します。JOOiの調査でも、現場で実践できる知見が多くの支持を得ています。
長期的な競争力強化
リサーチを継続すると、意思決定は感覚や声の大きさではなく、根拠に基づいて行われます。その結果、プロダクトの一貫性が高まり、ブランド価値の向上や持続的な成長につながります。
―UXリサーチは「見えない摩擦」を可視化し、意思決定を強くする活動です。最初の一歩は小さくても十分です。ユーザビリティテストから始め、改善の成果をチームで共有してみてください。
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UXリサーチとは?
まずはUXリサーチの全体像を押さえておきましょう。UXリサーチとは、ユーザーの行動やニーズを観察・調査し、その結果をもとに施策や改善案を導き出す活動です。ユーザー中心設計(UCD: User Centered Design)の土台ともいえる存在で、プロダクト開発においては「作る前に確かめる」「作った後に検証する」両面を担います。定性的な調査(インタビューや観察)と定量的な調査(ログやアンケート)を組み合わせ、事実に基づいた意思決定を行うための出発点になります。
定義と役割
UXリサーチは大きく4つの役割を果たします。①課題を発見する、②機会領域を見つける、③施策の妥当性を確認する、④リリース後の改善点を探す、です。
たとえば「ユーザーがどの場面でつまずいているか」を調べることで、UIの改善ポイントを早期に見つけられます。また、利用者が言語化できていない潜在的な欲求を拾うことで、競合にはない新しい機能開発のヒントも得られます。UXリサーチは、社内の感覚や思い込みを事実に基づく情報へ変える“翻訳者”のような存在だと理解するとわかりやすいでしょう。
UXリサーチの主な手法
代表的な手法には以下があります。
ユーザーインタビュー:利用背景や動機を深掘りする。半構造化形式で「なぜそうしたのか」を問い直すことで、隠れた課題が見つかります。
ユーザビリティテスト(UT):実際の操作を観察し、行動を記録。タスク成功率や所要時間、誤操作率といった数値に落とし込める点が強みです。
アンケート調査:態度や満足度を数値で可視化。セグメントごとの傾向を把握するのに有効ですが、設問設計が甘いと有効データが取れないため注意が必要です。
アクセス解析・ログ分析:Webやアプリの利用データをもとに、ファネル(行動の流れ)のどこで離脱が多いかを特定します。大規模ユーザーを対象にできる点がメリットです。
近年はリモート環境での調査が一般化し、参加者の生活文脈を崩さずに行える点が評価されています。また、AIを活用してユーザー発話を自動で分類する仕組みも登場しており、調査工数は確実に減っています。
――ここまででリサーチの基本が見えました。次は、企業が導入することで得られる具体的なメリットを紹介します。
企業がUXリサーチを導入するメリット
UXリサーチの真価は「意思決定を早く、正確にできる」点にあります。現場の肌感覚にデータを加えることで、施策の議論に根拠が生まれ、無駄な開発や修正を避けられます。ここでは主要なメリットを5つに整理します。
顧客満足度・ユーザー体験の向上
リサーチを行うと、ユーザーが不便に感じている点を具体的に知ることができます。UIの文言や導線の小さな違和感を修正するだけで、体験の快適さは大きく変わります。
実際、JOOiの調査ではイベント参加者の満足度が「4〜5(5段階評価)」と答えた人が75.2%、実務にすぐ活かせると答えた人が62.1%に達しました。これは、細やかな改善が体験品質の向上につながることを示しています。
プロダクトの成功確率向上
新しい機能やサービスが失敗する理由の多くは「間違った問い」に答えようとしているからです。開発の初期段階でユーザーの声を拾い上げることで、不要な方向に進むリスクを減らせます。特にSaaSや金融のように専門知識が必要な領域では、リサーチの価値が一層高まります。
JOOiに登録しているデザイナーのうち、SaaS経験者は53.1%、金融経験者は51.2%と豊富で、こうした背景がプロジェクト成功を後押しします。
開発コスト・工数の削減
後工程での修正は時間もコストも膨らみます。UXリサーチで課題を事前に見つけておけば、不要な実装や大きな仕様変更を防ぐことができます。ちょっとした改善、例えばマイクロコピーの修正やエラーメッセージの見直しでも、問い合わせ件数を減らし、開発チームの負担を軽くできます。
競争優位性の確保
UXの改善は競合との差別化にもつながります。他社と似たような機能を提供していても、体験の滑らかさや安心感で差をつけることが可能です。体験が積み上がれば、ブランド価値が安定し、顧客獲得コストを抑えながら成長できます。
データドリブンな意思決定
数値や観察データを根拠にすれば、関係者間の合意形成がスムーズになります。たとえば「初期設定に30分かかっている」という事実があれば、優先すべき改善は明確です。データは共通言語となり、意思決定のスピードを高めます。
――次に、実際の企業での導入事例を見てみましょう。
具体的な導入事例
ここでは、Webサービス、ECサイト、BtoBサービスの3つの事例を紹介します。それぞれの課題とリサーチでの気づき、改善後の成果を整理します。
Webサービス企業の事例
新機能の利用率が想定より低く、サポートへの問い合わせが増えていました。リモートでのユーザビリティテストを行った結果、初期設定画面の文言がわかりにくいことが原因と判明しました。改善後、初回利用完了率が18%向上し、問い合わせ件数も減少しました。
ECサイトの事例
カート投入数は増えているのに、決済直前での離脱が多発していました。行動ログとモバイルユーザビリティテストを組み合わせると、配送オプションの説明不足やフォームの不具合が明らかになりました。修正後、決済完了率が12%改善しました。
BtoBサービスの事例
重要機能が浸透せず、導入教育に手間がかかっていました。現場観察を行うと、既存の業務フローとの不整合が課題であることが判明しました。入力台帳の自動取り込みを導入すると、利用率が21%上がり、顧客の定着度も改善しました。
UXリサーチ導入のコストと期間
リサーチの費用は、対象ユーザーの希少性や調査手法の種類で大きく変わります。ここでは一般的な目安を紹介します。
小規模リサーチのコスト目安
ユーザーインタビューや簡易アンケートなど、小規模な調査は30〜80万円程度で2〜3週間あれば実施できます。社内にユーザーパネルがある場合はさらに低コストで可能です。
本格的なリサーチのコスト・期間
新市場への参入や多言語対応など、本格的な調査では200〜800万円、6〜12週間かかることもあります。特に希少なBtoBユーザーのリクルーティングや、複数国での比較調査を行う場合はさらにコストが上がります。
例:新しいSaaSツールを欧州市場に展開する場合、現地ユーザー15名へのインタビュー+オンラインアンケートn=500を実施すると、期間は3か月、コストは約600万円規模になるケースもあります。
投資対効果を高める工夫
リサーチの成果を出すには、段階的に進めることが重要です。小さく始めて成果を確認しながら規模を拡大するアプローチが有効です。ResearchOps(リサーチの運用基盤)を整えると、調査の効率や再現性が高まり、費用対効果も上がります。
UXリサーチによるROI事例
UXリサーチの価値は、数字として明確に表れます。ここではコンバージョン率(CVR)、開発コスト、顧客維持率といった指標に与える効果を整理します。
コンバージョン率改善の数値効果
オンボーディング体験を見直すだけで、CVRが10〜30%改善することは珍しくありません。例えば、月間セッション数100万・現状CVR2%・平均客単価5,000円のECサイトで、CVRが2.3%に改善すると、売上は月1,500万円増加します。JOOiのイベント調査でも、参加者の62.1%が「実務にすぐ活かせる」と評価しており、改善施策を短期で成果に結びつけられる可能性を示しています。
開発コスト削減の効果
設計段階で課題を特定すると、リリース後に修正する場合と比べてコストは1/5〜1/10で済むことがあります。ユーザビリティ起因の問い合わせを減らすことができれば、サポート工数も削減できます。小さなUI改修によって不要な実装を20〜40%抑えられた事例もあり、結果的に年間の開発原価削減につながります。
顧客維持率向上の効果
UXリサーチで「継続利用の壁」を特定すれば、解約率を下げることが可能です。解約前に代替案を提示する、未利用期間が長いユーザーに復帰導線を提供する、といった施策で解約率を1〜3ポイント改善できるケースがあります。これによりLTV(顧客生涯価値)が向上し、長期的な収益に大きく貢献します。
UXリサーチ導入のポイント
リサーチを成功させるには「小さく始めて、成果を共有し、継続する」ことが重要です。
小規模から始めるアプローチ
最初のステップは小規模調査です。例えば、ユーザビリティテストを5人に実施し、行動ログを1つの指標で追う。このようにシンプルな範囲で始めれば、早期に成果を確認できます。その後、改善施策を小さく試し、成功体験をチーム全体で共有することが次の一歩につながります。
経営層・チームを巻き込む重要性
UXリサーチは部門横断的な活動であるため、経営層やチームを巻き込むことが欠かせません。調査結果をダイジェスト動画や1枚のサマリーにまとめて共有すれば、合意形成がスムーズになります。また「何を達成できれば成功か」をあらかじめ定義しておくと、意思決定が速くなります。
継続的なリサーチの実施
単発の調査ではなく、隔週や月次で継続的に行うことで組織に知見が蓄積されます。ResearchOpsを導入すれば、パネル管理や調査設計を効率化でき、再利用可能な知見として社内に残せます。
UXリサーチの今後の重要性
デジタル化が加速し、競争環境が変化する中で、UXリサーチの重要性はますます高まっています。
デジタル化・DX推進との関係
DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるデジタル化ではなく、業務や体験そのものを再設計する取り組みです。UXリサーチは現場の実態を把握し、DXを成功させるための判断材料を提供します。
グローバル展開への貢献
海外市場では文化や習慣が異なるため、日本の前提で設計したUIは必ずしも通用しません。現地での行動観察やインタビューを通じてローカライズの精度を高めれば、ブランド体験を損なわずに展開できます。
AI時代におけるUXリサーチ
生成AIや自動化技術が普及しても、ユーザー体験の本質を捉える「現場での理解」は代替されません。むしろAIによる自動生成が進むからこそ「人間がどこで迷うか」「どこに不信感を持つか」を明確にできるリサーチの価値は高まります。
人材需要の高まり
UXリサーチのニーズは高まる一方です。JOOiの登録デザイナーのうち、90.8%がディレクション経験を持ち、FigmaやPhotoshopなどの主要ツールにも精通しています。こうした人材はリサーチと実装を橋渡しできるため、組織の成長に直結します。
まとめ:企業にとってのUXリサーチの価値
ROI改善に直結する活動
UXリサーチは「何を作るか」と「どう作るか」の両方の精度を上げます。CVRや継続率といったKPIを改善するだけでなく、無駄な開発を減らすことで収益に直結します。JOOiの調査でも、現場で実践できる知見が多くの支持を得ています。
長期的な競争力強化
リサーチを継続すると、意思決定は感覚や声の大きさではなく、根拠に基づいて行われます。その結果、プロダクトの一貫性が高まり、ブランド価値の向上や持続的な成長につながります。
―UXリサーチは「見えない摩擦」を可視化し、意思決定を強くする活動です。最初の一歩は小さくても十分です。ユーザビリティテストから始め、改善の成果をチームで共有してみてください。
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